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意識が。
急に真っ暗な、山の中に放り出された。
急いで、懐中電灯の電源を入れる。
……パシャンと魚が跳ねる音がした。
崖の下を覗き込むと、やはり池。
あの、俺が登ってきた太い木の根。
相変わらず気持ち悪いグニャグニャした形をしていて、宏則がここの地面に埋められているのは間違いなかった。
「宏則…ひろ、のり…ひろ…」
美和子さんは、ずっと宏則の名前を繰り返していた。
「今、呼び出すわ。美和子さん。ちょっと待って。緋朝、緑霊香をお願い」
水夜は両手を広げ、宏則を探そうとする美和子さんを霊力でこの場所にとどめ、代わりに俺は、急いで緑霊香を撒く。
勿論、宏則が埋められている所にだ。
すぅ、と宏則は現れた。
悲惨な状態のままの自分の子供を見た、美和子さんは、泣き叫び、ヨロヨロと宏則のそばに寄った。
こんな状態でも息子だと分かるだろう。
「おがぁ、さん。お、が、ざん」
痩せこけた美和子さんの姿を理解できず、ただただ母親を求めた。
それでも、美和子さんが、宏則を抱きしめる事で、「お母さん」だと気付いていく。
それは、少しずつ生きている時の、元気な宏則の体に姿をゆっくりと変えた。
それは、美和子さんも同じだった。
本来の美しい美和子さんに戻っていく。
「良かった」俺も水夜もそう思った時だ。
勢いよく風がゴオっと吹いた。
俺たちと、宏則親子の前に、白い大きな煙が、台風の突風のように、俺たちに吹き付けた。
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