小さな約束、大きな約束

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「シャオファ」 俺にも見える大きな白いライオン。 宏則を守ろうと、俺たちに威嚇する。 鼻の頭にシワを寄せ、牙を剥き出し、低く唸った。 俺はズボンのポケットに手を入れた。 館の裏から掘り起こした、シャオファの首輪だ。 昼間、雨の降る中、杉村の財布が入った缶から取り出した猫の首輪。 「シ、シャオファ…?これ、覚えてるだろ?宏則がつけてくれた首輪だよ」 俺は恐る恐るシャオファに首輪を見せた。 白いライオンは、威嚇するのを止めるどころか、大声で叫んだ。 その咆哮は、周りの木々を揺らす。 俺はその声に肩をビクリと震わせた。 「緋朝…シャオファ、私たちを敵としか見ていない。味方だって分かって貰わないと」 水夜は俺の袖をそっと掴んだ。 昔、彼女を大怪我させたその心が、彼女を怯ませたのかも知れない。 いや、俺も怖い。 相手は獣だ。むしろ、威嚇している動物に言葉が通じるかどうかだって。 でも、シャオファは宏則を守ろうとしているだけだ。 あの、小さな子猫が。 俺は、ここへ来る前の、水夜の「全力」を思い出した。
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