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そう話す彼女は一際目立った。 目立つ行動をしている訳じゃない。 美女だからだ。 まるで美しい絵画の女性が飛び出して来たような容貌だから、みんなが魅入る、そんな感じだ。 水夜を他の客が、みんな水夜に見とれていた。 「なんて綺麗な女の子だ」と。 流れる寿司を微笑みながら選んでいるだけなのに、 水夜にみんなが惹かれている。 彼女は全く他の客なんて見ていないけど。 この美しい女性を連れている俺が、全くの普通の男で、申し訳ない気持ちにもなったけど、色んな怖い事を一緒に切り抜けてきた、大事な彼女なんだと、自分に言い聞かせて、素知らぬ顔で俺も寿司を選んだ。 「美味しいね」 目を細めて、ニコリと笑顔を作る彼女に、俺も微笑んで頷いた。 可愛い、綺麗、抱きしめていたい。 顔には出さずに、我慢して寿司を頬張った。 *** 「お腹いっぱい。食べすぎたわ」 「んー、俺も腹いっぱいだ、でも、なんかデザート買って帰る?」 「いいわね、何にする?」 辺りを見回す水夜が、可愛くて。 思わず肩を抱き寄せる。 彼女は、よろけて俺の胸にぶつかった。 「ちょっと…周りが見るわ。やめてちょうだい」 急に、いつもの水夜に戻る。 「いいよ、俺ら、恋人同士だし」 「嫌よ、みんな見てるから」 水夜は、俺から離れようとしたけれど、俺は離さなかった。彼女は片手で口元を押さえて下を向いた。 照れているようだ。
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