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「あー、いつでもいいよ、今日はゆっくり時間を取ってある」 俺がそう返すと、伊蔵は八重歯を見せてニッコリと笑い、再びコーヒーを啜った。 陽に当たった金髪の一本一本が輝いて、まるで、宏則の猫、シャオファを思い出す。 アイツら、ちゃんとお母さんと一緒にゆっくり幸せにしてるかな…… ボンヤリと伊蔵の、揺れる髪の毛を見ていると、水夜が「どうしたの?」と声をかけてきた。 「あ、いや、何も……」 伊蔵も顔を上げた。 「なんすか、緋朝」 「昨日もぼんやりしていたわよね、どうしたの?」 「な、何もない!何もない!」 伊蔵はカップを置き、立ち上がると自分のスマホをズボンから取り出す。 「お疲れなんすか?すんません、すぐ査定して、話も早く終わらせますわ!」 「いや!大丈夫!ゆっくりしてくれ!」 「緋朝、大丈夫なの?」 「ホントに、大丈夫だから!」 伊蔵は、俺の顔を覗き込みながら、ゆっくり座り直す。携帯はテーブルの上に置いた。
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