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伊蔵は、再び鞄に手を入れる。
鞄はマチが5センチ程の肩掛け鞄だが、その中から、一片が20センチはありそうな、正方形の木の箱を取り出した。
鞄は膨らんでなんて無かったのに、その木の箱はヒョイと簡単に中から出てきたのである。
……もう何も驚きはしないが、その鞄の中身を見てみたいとは、思う。
「これ、水夜さん達に必要なものっす」
伊蔵は、正方形の木箱のフタを開け、両手でそっと中の物を取り出す。
「水晶?」
水夜が口を開いた。
「そっす!デカいっしょ?」
伊蔵は金色の台座に大きな水晶玉を置いた。
まるで、葉の上に乗る、朝露のような綺麗なまん丸の水晶。
台座は綺麗な模様が彫られている。
でも、よく見ると、模様と言うより、文字の様にも見える。
「この水晶を先見の婆から買ってきたっす。水夜さん達の事情を話したら、この水晶が助けてくれるっていってました。水晶に知りたい事が映るらしいっす。それをするには、水夜さん、この台座に書いてある呪文をまず覚えて下さい」
やっぱりそうだ。この台座の模様は文字だ。
でも、日本語でも、英語、他の言語でもない、見たこともない形をしている。
水夜は台座に彫られた文字を指先で触れた。
「水夜、これ読めんの?」
「ええ、読めるわ。これは死者の文字よ。緋朝も死ぬと読めるようになるの。だから、今の緋朝には読めないわ」
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