190人が本棚に入れています
本棚に追加
温かい緩い日差しが当たるエントランスの窓際のテーブル。
そこで俺たちは話を始めた。
食堂まで行かず、エントランスのそこに座ったのは、また女の子が来るかも知れない、と念のためだ。
お土産は、煎餅の詰め合わせ。醤油、塩、ザラメ、七味、黒ゴマ、それと、カレー味。
紙袋から薄いピンクのジャムが入った小瓶と、クラッカーを出す。
「どれを食べようか迷ってしまうわね」
水夜の入れてくれた飲み物は、紫蘇の炭酸ジュース。
水夜が紫蘇を甘く漬けた原液に炭酸水で割っただけの物だけど、アメジストの様な紫の中で炭酸の泡がプクプクと上がって綺麗だ。
俺は、ストローで紫蘇ジュースをかき混ぜると、氷がカランと鳴って涼しく感じた。
「な、早く来て欲しいって話が何かあったんじゃないのか?俺に会いたいだけじゃなかっただろ?」
「いやね、そんな言い方しないで。会いたかったのはホントよ」
彼女も、紫蘇ジュースのストローを回す。
「でも、話もあったけど...」
俺は煎餅の袋に手を伸ばし、自分に醤油味、それから彼女を指差した。
「どれがいい?」
「え、あ、じゃあ、うんと、七味を」
手渡すと、水夜は袋を開け、煎餅を少しかじった。
俺も食べる。
煎餅は、香ばしく、醤油の甘辛い味が食欲をそそった。
もう一口食べる。
「あのね、話っていうのはね・・・」
彼女は言いにくそうに小声で言った。
最初のコメントを投稿しよう!