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「えっ、いや、水夜のせいじゃない、それだけでも分かっただけでも、成功じゃないか」
俺はニコリと笑う。
どっちにしろ、宏則の所に行きたいとは思っていたんだけど……
「……お煎餅、美味しいね」
水夜が七味のお煎餅をカリッと食べた。
そして、俺にいつものように薄く微笑む。
彼女は何をしていてもホントに綺麗だ。
サラサラと肩から落ちる黒髪も、瞳を更に大きく見せる、長く縁取る睫毛も、整った赤い唇も、全部全部俺の物にしたいと思う。
付き合った女の子は今まで何人かいたけれど、
愛しくて、守ってあげたくて、こんなにもどかしい気持ちは初めてだった。
「緋朝?」
「え、あぁ…」
「……やっぱり、ツラい?私1人で行ってもいいのよ?もしかしたら、水晶が現す未来は変わるかも知れないでしょう?」
水夜に心配させてしまった。
違う、怖くないと言ったらウソだけど、水夜を1人にさせるワケないじゃないか。
「そうじゃない、水夜があまりに綺麗だから、見惚れてただけだ」
「……緋朝ったら、またそんな事言って」
八の字になっていた眉を、ふいと元に戻し、俺から目を逸らす。
「ホントだよ、俺、こんな事言う奴じゃ無かったけど、水夜は特別だ。ホントに離れたくない」
彼女は俺に小さく苦笑いすると、再び俺の手に自分の手を乗せた。
「私もよ、何で緋朝と違う世界で住んでいなくちゃならないのか、悔しくなるの」
……いつか、何とかなる。
これまで、何とかなってきた。水晶だって買えた。
俺たちが一緒に住む事だって、いつか何とかなる。
強くそう思うしかない。
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