たて子さん

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水夜の握られていた手が俺から離れて、そして頭を下げた。 「そうね、ごめんなさい」 「え……」 「嫌な事を無理やりさせようとするなんて、ダメよね……私が間違っていたわ」 水夜は立ち上がって、元いた俺の向かいのソファに座りなおした。 「無理に読まなくていいわ。でも、日記帳を返して貰える?また緋朝のような空間を移動できる人に出会ったら、読んで貰うことにするわ。 だから、あなたには、別の物をプレゼントするわね、ネクタイや万年筆なんてどう?それなら持ち運びやすいでしょう?」 水夜はほとんど表情を変えない女性だけれど、この時は、この無表情が「ガッカリ」に見えた。 そのガッカリは「俺が本を読まない事にガッカリ」ではなく「俺にガッカリ」されているような気がした。 だけど、それは水夜が静かに引き下がった事で俺自身が自分にガッカリしているからだ。 「もし、そんなヤツが現れなかったらどうする?」 俺の問いに対して、あっけらかんと彼女は答える。 「私は時間がたっぷりあるの。今までそうして来たように過ごしているだけで、いつか見つかるわ。気長に待てるの」 水夜がアイスコーヒーを一口飲む。 グラスに付いた水滴が、彼女の指の上で流れた。 なんか、俺がホントに役立たずだったようで…… 何だか悲しくなる。 俺は悪くないんだけど。 「……分かったよ、読むよ」 「もういいのよ、無理やりは良くなかったわ」 水夜は半分残したままだったチョコブラウニーを食べた。 本当に俺の事なんて気にしていないようだけど、何で俺が罪悪感を持たなければならないんだよ。 「いや、読む……」 水夜が顔を上げて、俺を見た。 彼女が今、何を考えているかは分からなかったが、無表情から少し口角を持ち上げたのは分かった。 「いいわ、そしたらその日記持って帰って読んでいいわよ」 「いや、読む時はここで読む。さっきも言った通り怖いけど、でも水夜は何か知りたいんだろう?それの手助けをしたい」
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