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指先にあるのは、指輪。 俺には高価な物なのか、安物なのか分からないが、金の土台に、小指の爪程の緑色の石が付いた、綺麗な指輪だった。 「指輪…?」 女の子は、俺にゆっくりと差し出す。 「俺に?」 「うぉ……やお…」 何かを話してる?でも、日本語じゃない? 俺に指輪を手渡そうと、更にその手を少し上に上げた。 「うぉ…やお」 分からない。何を言っている? でも、指輪を手渡そうとしているのだ。 俺は力の入らない足に何とか力を入れ、近付く。 ホントに力が入らない。 ブルブル震える足を押さえながら、女の子に近づいた。 「俺に、指輪を渡すんだよね?」 「にぃ、ば、じょう…」 俺は指輪に手を近づけた。 震えが止まらない。 指輪に触れた途端、この子が襲いかかって来たらどうしよう…… 心臓が喉の奥に詰まった感じ。ドクドクと高鳴り、息がハッハッと短く切れる。 指輪をつまむ。 すると、その子はスッと手を引いた。 そのあと、指輪を指差す。 「じょう…ぐぉ」 指輪から目を離し、俺を見上げた。 痩せこけた小さな顔に、ギョロギョロと目だけが大きく見え、怖かった。 しかし、彼女は話し続ける。 「げぃ、うぉ…ない、ない」 「な、ないない?」 女の子は頷いた。 ないないって何だ? 指輪が無い?そういうこと? 全然分からない。 指輪は、何故か、少し土で汚れていた。 金に細かい装飾がしてあり、緑色の石も拭けば綺麗にもっと綺麗になるハズ。 「ないないって、何?」 指輪から視線を外し、女の子を見ると、そこには誰もいない……。 俺はキョロキョロ部屋を見渡し、玄関に繋がるドアも開けたが、廊下には誰もいない。 俺は、ガクッとその場に座り込んだ。 「何だよ…何だよ…….意味分かんねぇ」 全部の緊張を吐き出すかのように、俺は深いため息をついた。
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