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「……宏則の所に行ったら何かわかるかな」 「……そうね、絶対とは言えないけど、このタイミング。何か手がかりがあるのかも知れないわ。あと、宏則くんの何か遺品持ち帰りたいから、小さな袋も」 俺たちは、日記の封印をそう言いながら解いた。 *** 宏則が眠る山に降り立つ。 音のしない静かな闇の中で、煙草の煙を漂わせたようなぼんやりした冷気が俺たちの周りを支配していた。 「宏則くんが埋まっているのはこの辺りだったかしら?」 「あぁ、そう」 手で掘り返すのは難しそうだったからシャベルを持って来たけど、いけるかな。 年月が経ちすぎて、固まった土になっていそうだ。 でも、その時だった。 「お兄ちゃん」 小さな男の子の声。 水夜と一緒に振り返ると、ポゥッと薄い黄緑色の光が見える。 「宏則?」 黄緑色の光が大きくなり、宏則の形を作った。 あの痛々しかった傷も消え、死んでいると知っていなければ、元気な男の子だ。 「宏則、久しぶりだな、お母さんとシャオファは元気か?」 「うん、今ものすごくあったかくて、綺麗な場所でお母さんとシャオファといるよ、ありがとう」 宏則は、幸せなんだろう。俺たちを見てニッコリと笑う。 水夜も宏則を見つめ、微笑んだ。 「僕ね、お兄ちゃん達に渡したい物があったんだ。指輪……届いた?」 「あぁ、これだろ?やっぱ宏則だったんだな」 俺は指輪を見せると、宏則はコクンと頷く。
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