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「宏則の、なにか持ってるものが欲しいんだ。小さな物でもいい、宏則や、宏則お母さん、シャオファの事も忘れないように」 宏則は小首を傾げた。 「僕のもの?」 俺は宏則が埋まっている地面を指差す。 「うん。宏則、ここに埋まってるだろ?ここから持って行ってもいい?」 宏則は少し考えてから、俺にニコリと笑う。 「お兄ちゃん、指輪渡したら、ここへまた来てくれない?僕、その時に渡すよ。持っていてもらいたい物なんだ」 俺は再び水夜を見た。 水夜は柔らかく微笑み、頷く。 「分かった。必ず来るよ」 宏則は頷いたあと、俺の少し後ろにいる水夜をひょいと見た。 「お姉ちゃん……」 「なぁに?」 「お姉ちゃんも、ありがとう。お姉ちゃんは……僕と一緒なんだね?」 「一緒?」 宏則はニコッと笑うけれど、少し言いにくそうに小さな声になる。 「……死んでるひと」 俺は少し驚いて、水夜を見たけれど、彼女は微笑んだまま、宏則を見ていた。 「そうね、宏則くんと同じよ」 *** それから俺たちは館に帰った。 指輪を持ったまま。 ベッドからむくりと起き上がる。 水夜は、目を開けたが、しばらくベッドに転がっていた。
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