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「水夜?」 水夜がむくりと起き上がる。 「……台湾にいかないとね」 「えっ!?今すぐかよ」 水夜がアハッと笑う。 「まさか。でも、早く行った方がいいわ、きっと」 「うん、そうだな。いつもみたいに行くの?」 彼女は即答せず、うーん、と唸る。 「どうしようかしら……いつものように行こうかしら。 でも、家ごと行った方が、動きやすいのかな」 「家ごと……でも、俺、仕事あるし、それだと金曜日の夜に出ても、2泊でまた家ごと帰ってこなきゃ行けないぜ?しかも、まだ場所も分かってないしさ」 「場所は、大丈夫よ。水晶にも勿論たずねてみるけれど、用意が整えば、あの女の子が必ず来ると思うわ。 でも、そうね、すぐに帰りたいとき、肉体がこっちにあるほうが、緋朝は便利だわ。いつもみたいにいきましょう」 水夜は俺に自信があるような笑みを浮かべた。 何か感じ取ってるんだろうな、と思う。 「分かった、水夜に任せるよ」 彼女は頷いてから、ベッドから立ち上がり、黒のワンピースの裾をパッと払ってシワを伸ばした。 *** 次の週の金曜の夜。 玉蘭(ゆうらん)ちゃんは、俺たちの前に現れた。 この子が俺たちに危害を加えないと分かっていても、突然に現れると、心臓がギュッと小さくなって、息が止まるかと思う。 念の為、下着や洗面用具などをコンパクトに詰めたバッグを数日前には用意してあった。 それに水晶で場所も調べ、俺たちが行かなければならないのは、台南の田舎だと言うのが分かっていた。
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