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俺たちがベッドに横になり、台湾へ行く為に眠る準備をする。 玉蘭(ゆうらん)ちゃんは、ゆっくりゆっくりと俺たちに近づくと、水夜の手を握った。 俺は玉蘭(ゆうらん)ちゃんが、俺たちを無表情に見下ろしているのが怖くて、体に力を入れて、ギュっと目を瞑った。 そして。 いつもと同じように、次に目を開けたときには、館を離れて、違う世界へ来ているのだった。 辺りは、夜。 古い建物が林立していた。 数段の階段の上に、木造の家。所々崩れた壁の内側に土台に使われているのか煉瓦が見える。 屋根はトタンを何層も重ねたもの。 何ともノスタルジックな長屋が並んでいる。 そんな家が、当たり前に並んでいる田舎の村のようだ。 しかし、家の中からは笑い声や、親が子供を叱る声が聞こえ、日本でも見られる普通の日常がそこにあった。 でも、今より古い時代にいる事はわかる。 田舎と言っても、道の舗装もできていない凸凹道。 家の中の灯りは、仄暗い。 俺たちはその長屋が並ぶ道の真ん中で、その風景を見ていた。 そして、水夜の横には玉蘭(ゆうらん)ちゃん。 玉蘭(ゆうらん)ちゃんは、長屋の向こうを指差した。 長屋の先は、ゆったりな坂道だ。 その先に一軒の家が見える。 長屋と比べると、大きめの煉瓦造りの建物。 「あそこに行けばいいのかな?」 俺が玉蘭(ゆうらん)ちゃんに訪ねると、何も言わなかったが、水夜を引っ張り、その建物の方へ歩いて行った。 俺も勿論ついて行った。
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