時間を移動する

42/57
前へ
/360ページ
次へ
疲れはしないほどの坂道を3人で上がっていく。 周りは子供たちが走り回れそうな草っ原だ。 畑や田んぼなどはない。 野菜がすぐに作れるといった柔らかい土でも無さそうなのは素人の俺でも分かる。 歩く度に、靴が地面を擦る音が、ザリザリと硬く乾燥しているもので、草っ原と俺たちの歩いている道が、土の質が変わる境界などなく、単に草が生えているかいないかだけのものだ。 この辺りの人たちは、時給自足とか、そんな感じではなく、どこかへ働きに行き、どこかで買い物をしているのかもしれない。 なんとなく、そんな事を思いながら歩いていると、 その煉瓦の家にすぐに到着した。 窓を見ると、坂の下の長屋よりも、少しだけ明るい灯りが灯っていた。 こっそりと、水夜と俺で覗く。 暗いオレンジ色の灯りの中、小さな木製のベッドが部屋の奥に見えた。 そこに女の子が眠っている。 「え……あれ、君じゃないの?」 俺は水夜の横にいる玉蘭(ゆうらん)ちゃんを見下ろした。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加