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「美和子は…そこの絵に書いてある名前、秀琴(しゅうちん)が本当の名前。日本人の竹刃さんと結婚して、あの子は美和子と名乗るようになった。自分の夫が病気で亡くなってもね」 「そ、そうなんですか」 「とりあえず、一階に下りてきてください。お茶を用意するから」 美恵(めいふぇん)さんは、そのまま俺たちに背をむけて、ドアの向こうの階段を降りていく。玉蘭(ゆうらん)ちゃんも、ふわりと下へ下りていく。 俺と水夜は、荷物を持つと、彼女の後ろをついて行った。 美恵(めいふぇん)さんが一階の電気をつけると、部屋の中が、パッと明るくなった。 ダイニングキッチン。 ここも普段使われていなかったようで、埃の匂いがした。 「ちょっと待ってね、椅子を拭くから。普段ここの離れは使っていなかったから」 「あぁ、手伝いますよ」 俺と水夜が近づくと「大丈夫」とニコリと微笑んだ。 ……美和子さんと似ている。 いや、美和子さんが似ているんだけど。 「お茶はね、ちゃんと新しい物だから安心してね」 そう言いながら、お湯を温める。 美恵(めいふぇん)さんが窓を開け、テーブルや、椅子を拭く姿を、俺たちは無言で見つめていた。 ふと、気がつくと、玉蘭(ゆうらん)ちゃんが、いない。 「あれ?玉蘭(ゆうらん)ちゃんが居ない」 辺りをキョロキョロ見回たすと、水夜が俺を見上げる。 「さっき、スッと消えたわよ」 美恵(めいふぇん)さんは、俺たちを椅子に座るように勧めると、窓の外を指さした。 「玉蘭(ゆうらん)は、あっちの母屋にいるよ。あの子は本当は病気で寝てるんだ」
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