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「どう言うことですか?」 椅子に座る俺たちの前に熱いお茶が置かれる。 熱い湯気にお茶の香りがフワフワと流れて日本茶とはまた違ういい香りがする。 「順番に、ゆっくり話しましょう。まず、名前、聞いてもいいですか?」 「…あ、挨拶が遅れてすみません。宮本緋朝と言います。こっちは、水夜です」 「水夜と申します、夜分に申し訳ありません」 俺たちは頭を下げると、美恵(めいふぇん)さんはニコリと笑う。 「ひともさんと、みやさんね。はじめまして。あと、さっきの子、玉蘭(ゆうらん)は、秀琴(しゅうちん)…あ、さっきも言ったけど美和子の事。 あの子の10歳年下の、妹の子供なの。 美和子の姪。宏則の従兄妹になる。 美和子と宏則が死んで15年してから、玉蘭(ゆうらん)は、産まれた。美和子は日本のお寺で供養されたと後から知ったわ」 と、言うことは、玉蘭(ゆうらん)ちゃんが5歳くらい……今、宏則たちが亡くなって、20年くらい経った世界ってことか。 大体だけど、俺たちが宏則の日記の件に関わった世界に行ったくらいの年代だよな、多分。 美恵(めいふぇん)さんは話を続けた。 「玉蘭(ゆうらん)は、産まれた時から、体が弱くてね、それからおかしな事を言う子だった。不思議な世界が分かる子なんだろうね、お母さんのお姉さんに会った、とかね。会ったことも、会えるわけもないのに。でも、玉蘭(ゆうらん)は、日本の名前を教えた事がないのに、秀琴(しゅうちん)を美和子と言ったの。宏則と言う自分の子供を探しているともね。驚いたわ。 そして、悲しかった。 …死んでも秀琴(しゅうちん)は…宏則を探しているんだって。日本で子供を探し、自分は死んでしまい、骨になっても親にも……私にも会えないなんて」 美恵(めいふぇん)さんは、言葉を詰まらせて、涙を我慢していた。 俺も、美和子さんが一生懸命に宏則を探していたのも、そして、悲しみのあまりに亡くなったのも見ているから、その切ない気持ちは分かる。 親だから、俺なんかより、もっと悲しい想いでいっぱいだろう。 少しお茶を飲んでから、美恵(めいふぇん)さんが再び話を始めた。 「それから、しばらくして、玉蘭(ゆうらん)の魂を見たの。生霊って言うのかしら?死んでもないのに、魂が抜け出て、私のそばに立っていた。そして、すぐに消えるの。 初めは怖いし、あの子の体を見に行ったけど、生きているし。 私がおかしくなったかと思ったのだけど……。 その生霊が出て消える度に、すぐに玉蘭(ゆうらん)の体を見に行くの。すると、今度は宏則の話をしだすようになったのね。 ……お母さんを探している。宏則は殺された。山に埋められている。次々と色々言い始めたけれど、どんなに不思議な話をしても、誰も信じてくれる訳がない」 ……確かに。 こんな話、誰も信じてくれないだろうな。 俺だって、こんな世界を知らなければ信じない話だ。
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