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俺は、お茶を一口飲んで、深く深呼吸する。
それで涙を堪えた。
「……その男は、宏則を探す美和子さんに優しくして、心を痛めた美和子さんに近づきました。でも、美和子さんは……食事も喉を通らず、眠る事も出来ず、弱って……亡くなりました」
美恵さんは、わぁわぁと泣いた。止まらなかったんだと思う。
可哀想に。こんなツラくなる事を、あの憎たらしい男がしたかと思うと、拳に力が入った。
「ここからは、もっと信じられない話かも知れない事ですが」
美恵さんは、涙でグチャグチャになった顔を上げる。
水夜は、可哀想と思って見ていられなくなったようで、逆に下を向いた。膝の上で重ねていた両手をグッと握っているのが見えた。
「宏則が可愛がっていた猫。シャオファと言うのですが、シャオファも、その男に殺されました。でも、死んだシャオファが、ある日、その男を殺しました」
「え……どういう事?」
宏則が、いつか美和子さんと、シャオファと一緒に台湾に行きたい事、宏則がシャオファに剣獅子になって守って欲しいと話していた事。シャオファは宏則を守る為に、化け猫…いや、剣獅子になって、あの男を殺し、その後も、宏則を探し、住んでいた家を守ろうとしていた事……
見た事を、詳しく話した。
「宏則…宏則っ……」
孫を失った祖母の悲痛な泣き声だった。
娘も、その孫も亡くしてしまった悲しみは、こんなに時間が経っても、消えない……
「宏則は…美和子が送ってくれた写真でしか見た事がなかったけど、素直そうな可愛い子だよ。その猫、シャオファも、そんな宏則が大好きだったんだろうね、守ろうと必死だったんだね。その男もシャオファに殺されて当然だよ。
……でも、その男が死んでも、憎しみは消えない。ツラいね」
そうなんだ。
家族でもない俺でも、宏則や美和子さんを死に追いやった、あの男が許せない。
家族なら、もっと、ツラい、憎いだろう。
「でも、宏則と美和子さんを会わせる事が出来ました。シャオファも子猫の姿に戻り、幸せそうにみんなで光の中に向かいました。
その後、玉蘭ちゃんが現れて」
俺は鞄の中から、箱を取り出した。
「これを渡して欲しいと」
美恵さんの前に、その箱をそっと置いた。
彼女は、箱を手に取り、フタを開ける。
そして、目を見開いた。
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