たて子さん

18/30
前へ
/360ページ
次へ
初めて2階へ上がった。 水夜の後ろから、広い階段をついて上がり、言われた通り、4つ目のドアの前で止まる。 「はい、この部屋の鍵よ。まぁ、急に開ける事もないし、詮索したりはしないけど、気になるなら鍵を閉めていいわ」 「いや、鍵は閉めない」 「そう?でも、渡しておくわ。とりあえず着替えたら下りてきてちょうだいね」 水夜はそのまま来た廊下を戻り、階段を降りて行った。 俺は水夜を見送ってから、ドアのノブを回す。 中は、おおよそ12畳くらいで、濃い茶色の高級そうな机と、大きなベッド。奥にはクローゼット。 それから、クローゼットの横の壁には、アンティーク調の、装飾が細やかな鏡があった。 どの家具も傷つけたら大変だ。 俺はその部屋で着替えを済ませて、1階へ下りる。 「緋朝、部屋はどうかしら?気に入った?」 「あぁ、うん。部屋の中も豪華で凄いね、綺麗な部屋で気に入ったよ。でも、傷をつけたら大変そうで、ちょっと怖いよ」 「良かった。全部古い物だから多少傷付けても気にしないわ。のびのび使ってくれて結構よ。さぁ、こっちへどうぞ。夕食を作ったわ」 1階も、ロビーのいつも座るソファーのある空間しかいた事がない。 2本の白い大きな柱を抜けて、別の部屋に入る。 赤い絨毯、赤いカーテン。大きな暖炉の上には見事な角を持った鹿の首の剥製。 ホテルのビュッフェの食事が並びそうな長いテーブル。 でも、その長いテーブルには、ポツンと俺たちの夕食しか乗っていない。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加