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美恵(めいふぇん)さんが少し落ち着いてから、もう一度熱いお茶を入れ直してくれて、あと、阿法紅豆(あーふぁほんとう)という、おまんじゅうのような甘いお菓子を出してくれた。 俺と水夜は、美恵(めいふぇん)さんの、思い出話や、今の生活の話を聞いた。 日本語が上手なのは、この辺に日本人のお爺さんが住んでいて、そのお爺さんが教えてくれたらしい。 もう亡くなったんけれど… そして、すっかり夜が更けた頃、「今日は泊まってください」と言ってくれる美恵(めいふぇん)さんに、初めは丁寧にお断りして日本に戻る事にしたんだけど…… 最後に玉蘭(ゆうらん)ちゃんに会いたいと、美恵(めいふぇん)さんに言ってみると、快くOKしてくれた。 母屋に行き、ベッドに眠る玉蘭(ゆうらん)ちゃんをそっと覗く。 玉蘭(ゆうらん)ちゃんは、起きていたようで、俺たちの方に頭を動かした。 「こんにちは……」 オドオド声をかけると、彼女はニコリと笑った。 生霊で見た時と違い、怖さはないが、やはり顔色は悪く、心配になる。 美恵(めいふぇん)さんは、俺たちが例の日本人だと、玉蘭(ゆうらん)ちゃんに中国語で説明しているようだ。 それを聞いて、分かっている、という感じで、彼女は頷いている。 そして、俺たちを見た。 「謝謝」 この言葉は、訳されなくても、分かる。 ありがとう、だ。 玉蘭(ゆうらん)ちゃんは、水夜を見て、それから、美恵(めいふぇん)さんに何か言っている。 「みやさん、玉蘭(ゆうらん)は、ここから隣町にいる志明(じみん)さんという男性に会うといいって言ってます、志明(じみん)さん、私も知ってます。良かったら、紹介しましょうか?」 俺と水夜は顔を見合わせた。 どういう事だろう。 何かまた起こらないといいけど…… でも、その志明(じみん)さんという人に会うべきなんだろう。 水夜は、俺が「行こうか」というと「ええ」と言って、美恵(めいふぇん)さんに、お願いします、と頭を下げた。 しかし、夜ももう遅い。 結局俺たちは、美恵(めいふぇん)さんにお願いして、やっぱり家に泊めてもらう事にした。
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