時間を移動する

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どれくらい穏やかな波を見ていただろう。 日差しも気持ちいいし、結構長い時間そこに座っていたと思う。 が、我に返って、立ち上がった。 そろそろ、志明(じみん)さんの家に戻った方がいい。 俺は早歩きで、元来た道に戻った。 志明(じみん)さんの家の前に戻り、リンゴ1つと、バナナの房を取り、俺は家の中へ入った。 「緋朝、おかえりなさい」 水夜が俺を見て、優しく声をかけてくれた。 「ただいま。志明(じみん)さん、これ、りんごとバナナです」 と両手にもったそれを少しだけ上に上げると、志明(じみん)さんはニッコリと微笑み、「謝謝」と何度も言いながら受け取ってくれる。 彼はテーブルに果物を置くと、俺に椅子に座るようにジェスチャーした。 そして、和紙を小さく折りたたんだ、日本で言うお守りのような、墨の文字で何かが書いてあるモノを俺に手渡す。 「これは?」 俺は顔を志明(じみん)さんを見る。 でも、答えは美恵(めいふぇん)さんから返ってきた。 おそらく、俺がいない間に何か聞いていたのだろう。 「緋朝さん、それは、死の世界から安全に帰れるようにするお守りです。 そのお守りは開けてはいけません。 でも、肌身離さず持っていてくださいと、志明(じみん)さんが言ってましたよ」 縦4㎝、横2㎝ほどの長方形。厚さは1ミリ程だ。 糊付けされてあり、開けられない。 何か入ってあるのか、それとも折り畳まれた紙の厚みだけなのだろうか、丁寧に折り畳まれてある。
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