結ばれる糸

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俺が目を開けると、水夜はすでに体を起こし、ベッドに腰をかけていた。 俺に背を向けて、窓の外を眺めている。 「…水夜?」 「あ、起きた?気分はどう?」 俺たちはいつもほぼ同時に起きる。 水夜のそのセリフになんとなくだけど、違和感を感じた。 「一緒に起きたんじゃないのか?俺、どのくらい寝てた?」 「ほんの数十秒よ。疲れていたのかしらね?起こすのが申し訳なくて声をかけなかっただけよ」 水夜は、ニッコリと微笑む。 俺はスマホの時計を見た。 日本と台湾を一泊して、往復してきたのに、時間としては数時間しか経っていない。 もうすぐ夜が明ける……真っ暗な空の下の方が少しだけ白み始めていた。 バッグからすでに出されている水晶の玉の端が光を浴びていたが、中は相変わらず、濃い紫の霧が渦巻いていた。 「…ねぇ、緋朝。今日、あまり疲れていないなら宏則くんの所にいかない?約束どおり私達は台湾の家族は指輪を渡しに行ったわ。宏則くんの形見の品を貰いに行けないかしら?」 「あぁ、大丈夫だ」 「そう、良かった。じゃあ、まず、もう少し陽が昇ったら、軽めの食事を用意するわ。緋朝はもう少し眠っていていいわよ」 「いや、俺も起きる。眠れないし。ちょっとシャワーでも浴びる」 俺はベッドから立ち上がり、部屋を出ようとしたけれど、水夜が慌てて止めた。 「緋朝、額に泥がついてる。ふいてあげる」 「泥?なんで?」 彼女はもっていたハンカチで、額を優しく拭ってくれた。 濃く長いまつ毛が縁取る大きな黒い瞳で俺を見上げて、拭いている所をみると、無事で帰ってこれた安心感と、水夜の美しさに心がキュッとなって、彼女に顔を寄せて、唇を触れさせた。
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