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俺は、毎日会社が終わると、駆け足で水夜の館へ走った。
水夜も路地の入り口で待っていてくれて、俺たちはいつもそこで抱き合う。
しかし、3日も経つと、景色はまるで砂嵐。
そのガザガザとした白黒の世界は、路地のすぐそばまで来ていた。
「俺たちはいつも一緒だよ」
「うん、うん、緋朝。あなたに会えて良かった。私は大丈夫だから、緋朝も幸せな人生を送ってね、約束よ」
水夜は俺がプレゼントした指輪を、俺の指輪にカチンと当てた。
「宏則くんと、シャオファから貰った玉も無くさないで?」
「勿論だよ、いつも肌身離さず持ってるさ。水夜こそ無くすなよ?お前は変な所でおっちょっこちょいだ」
俺たちは苦笑いする。
明日。
明日も会えるかな。
俺の大切な人。
失いたくない人。
***
次の日、会社で残業を頼まれた。
担当ではない仕事だったが、ミスがあり、みんながみんな手伝って、何とか今日中に資料を作り直さなければいけなくなったのだ。
心の中で舌打ちをした。
それでも、自分なりに早く終わらせて、急いで水夜の館に向かった。
そして、路地に入ろうとした時だった。
見えない壁に押し戻された。
「!?」
路地の向こうには水夜が見える。
路地の空間に手を触れさせてみるが、柔らかい空気のような壁に押し戻された。
「水夜っ!」
彼女は、ふるふると左右に首を振る。
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