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とうとう来た。
とうとうこの日が来た。
分かっていても、どれだけ今まで俺たちが言葉で理解し合おうとしても、この日が来た事が怖かった。
絶対に向こうには通してくれない空気の壁を、何度も何度も体当たりする。
水夜は、向こうで泣いていた。一筋涙の跡が光っているのが見えたからだ。
小さな体を自分で抱きしめて俺を見つめていた。
彼女が泣いているのに俺は何にも出来ないなんて!
体が痛くなる程、見えない壁に体当たりしたが、俺を頑として受け入れる事はない。
それどころか、暗く、細く路地が消えていく。
大きく息を切らせながら、もう一度水夜を見た。
彼女は指輪を指差し、ギュッ握り、「大事にするよ」とジェスチャーし、最後にニコリと微笑んだ。
涙を流したまま、だけど、いつもより、弧を大きくした笑顔で。
俺も咄嗟に指輪を握った。
笑顔は出来なくて。
そこで、路地は塞がり、二度と路地が現れる事がなかった。
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