190人が本棚に入れています
本棚に追加
《美世side》
私は宮本美世。
宮本緋朝と結婚したのはちょうど30歳の時で、それから52年、生活を共にした。
私達夫婦は子宝に恵まれなかったけれど、夫は優しく、そして、いつも私を労り、とても幸せな結婚生活を送らせてくれた。
"送っている"から"送らせてくれた"。
現在から過去形へ。
なぜなら、その夫が今、天国へ旅立ったから。
とても…寂しい。
「緋朝さん」
彼と私の出会いはお見合いだった。
人見知りで、どちらかと言えば大人しい性格の私は、「彼氏」と言うものが出来たことがなかった。
そう、30年間一度も。
数少ない女性の友達はいた。
でも、どうしても、男性と話そうとするとうまく話せないからだ。
だけど、両親は25歳を過ぎた辺りから「結婚」という言葉で私を責め立てた。
30の誕生日を迎えても、彼氏すら作らない、いや、作れない私に業を煮やし、たまたま母親が、フラワーアレンジメント教室で知り合った女性の息子さんが35歳の独身と言うことで、お見合い話を持ってきたのが始まりだった。
お見合いの席で、先に来ていた緋朝さんは、私と同じく「結婚」なんて、どうでも良さそうな顔をして、窓の外をボンヤリと見ていた。
それを後にお義母様となる、典子さんが、肘で小突き、小声で叱っているのが見える。
そこへ、私と母が挨拶へ向かう。
「飯塚美世です」
と私が挨拶すると、緋朝さんは少し驚いた顔をして、こちらを見て、そして、私をしばらくジッと見つめたあと、「宮本、緋朝です」と、柔らかい笑顔を作ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!