宮本美世

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彼と数回デートをし、それから結婚を前提にお付き合いする事になった。 彼とは何故かとても話しやすく、私の話を一生懸命聞いてくれるし、彼の話もとても楽しかった。 私は彼の事をすぐに好きになり、彼となら幸せになれる、と心から思ったし、それは間違っていなかった。本当に私は幸せだった。 ただ、一つ。 緋朝さんは私に秘密があった。 タンスの引き出しの奥に小さな箱が置いてあり、その中の指輪をぼんやりと見ている事がごくたまにあったのだ。 彼は私に気がつくと、スッと指輪を箱に入れ、優しく笑顔を作る。 その切ない笑顔を見ると、その指輪が一体何なのかたずねることができなかった。 でも、緋朝さんは、すごく大切な誰かを想っている…… そう思った。 恋愛経験の少ない私ですら、こういう女の勘は当たるものだ。 でも、彼は私をすごく大切にしてくれていたし、浮気だってするような人ではなかった。 ただ、何もないとわかっていても、その指輪の事を聞いてしまうと、なにか……私が緋朝さんの心の傷を広げてしまう、そんな気がして、怖くて、その話に触れられなかった。 彼が死ぬまで。 「緋朝さん、誰の事を考えているの?」 今、初めて、言葉を出した。 そして、自分にフッと笑う。 私はタンスから彼の指輪を取り出した。 指輪を初めてよく見たら、とても不思議な形をしたデザインがついた指輪だった。 勾玉のような形だ。 勾玉の丸い部分に白くて光った石がついていた。 見たこともないような玉だ。 一体何という石だろう。 これが、緋朝さんが、いつも見つめていた指輪ーーー 私の目から涙が溢れた。
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