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そして、もう動く事はない彼の手の中に指輪をそっと入れた。
「緋朝さん…」
冷たい。
本当にもう天国へ行ってしまったのね…
人差し指でクイッと指輪を彼の手の奥へ押し込む。
「私は大丈夫だから。本当にありがとう。緋朝さん、大切な人の所に行けますように」
嫉妬、という気持ちはなかった。
ーーー緋朝さんの大切な誰か。
50数年、緋朝さんを私に下さってありがとう。
指輪は、この後、緋朝さんが小さな箱に入ってしまっても……
そこに一緒に入れますからね。
涙が止まらない。
大好きな緋朝さん、たまには私も思い出してください。
===
《緋朝side》
………水夜を失った。
どれだけ月日が経っても忘れる事が出来なかった。
指輪を見つめては溜め息をつく日々。
そんなに長い付き合いではなかった。だけど、短期間で深くて濃い時間を過ごしていたと思う。
水夜を改めて愛していて、俺は前に進めない、と思っていた。
そんなある日、母親が持ってきた見合い話。
するワケがない。
したいと思わない。
だけど、母親の顔に泥を塗る事は出来ず、渋々俺は見合いに行った。
でも、全く興味ない。相手の名前すら聞かなかった。
だから、初めて会った時、「飯塚美世」と名乗った彼女の名前を"水夜"と聞き違えて、驚いて、顔を上げた。
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