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指輪を眺める俺に美世は何も言わなかった。
指輪のことも聞かなかったし、何を考えているのかも聞かなかった。
彼女は「お茶でも入れましょうか?」と指輪の事は触れずにニッコリ微笑んでくれるだけだ。
俺もいつまでも、指輪の事は言えずに、そのまま時を過ごした。
子供には恵まれなかったが、その分美世を大切にできる時間が増えたと考えれば前向きになれる。
美世は、子供が欲しいと言ったことがあったけれど、結局子供を授かる事が難しく、無理だと分かった時には「緋朝さんと一緒なら寂しくないわ」と俺の肩に頭を乗せて呟いた。
妻にこんな事を言って貰い、俺は幸せ者だ。
こんなにも愛してくれる人がいるのに、水夜が心のすみに存在していた。
ごめんな、美世。
でも、愛しているのは本当だよ。
そうして、俺は、爺さんになり、美世に看取られて死んだ。
1人で勝手に寂しくなっている気持ちが無ければ、本当にいい人生を送った。
美世、ありがとう。
魂になって、俺は、死んだ自分を上から見る。
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