再会、暇乞、邂逅

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俺は路地の前にフワリと体を下ろした。 恐る恐る手を近づけてみる。 が、 俺を邪魔する壁はなく、指が空を掻く。 足を一歩踏み出す。 地面を踏む感覚。 もう一歩踏み出すと路地の空間に体全体が入る。 入れた。 あの時、どれだけ頑張っても入れなかった路地に入る事が出来た。 でも、先に進むのは少し怖い。 辺りをキョロキョロしながらもう一歩進む。 すると、こちらへ駆けてくる足音が聞こえて、路地の向こうに見覚えのある女性が現れた。 「……緋朝っ!」 黒いワンピース。 長い髪、変わらない美しい顔…… 俺を見て、彼女が両手を口元に当てる。 俺は大きく息を吸い込んだ。 「水夜っ…」 俺は駆け出した。 彼女に会いたい。 彼女に触れたい。 彼女の声が聞きたい。 「水夜!」 「緋朝!」 路地を出た瞬間、俺たちは抱き合った。 待ってたんだ、この日を。 彼女の温かさ、香り、柔らかさ、全てを自分で感じる事が出来る。 彼女は俺の胸の中で「会いたかった…会いたかった」と泣きながら呟いていた。 やっと会えた。 時は50年以上過ぎた。 でも、会えたんだ。 「水夜、1人にしてごめん、ありがとう」 俺が彼女の頭に自分の頬を押し付けて、もう少し強く抱きしめると、水夜は小さくコクコクと頭を縦に振った。
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