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古い大きな懐かしい洋館。
見た目は50数年前と変わっていなかった。
裏に続く森も、そよそよと吹く風に、木と土の香りがほのかに混ざっている事も何も変わらない。
ここの世界は何もかも同じ……
「……もう、お昼ね。お腹は空いていないかしら?緋朝が食べたいお料理作るわよ?何がいいかしら?」
涙で目を潤ませた水夜が笑顔で俺を見上げる。
彼女もまた始めて会った時と全く変わらない。
彼女は美しい。
ただ、感情を表にあまり出すことのなかったのに、表情は変わった。
こうして今、泣いたり、笑ったり、表現してくれる。
「じゃあ、ガッツリした物が食べたいな」
「うふふ、じゃあ、とりあえず中へどうぞ?」
あぁ、やっと、やっと水夜とまた前の様に、一緒に過ごすことが出来る。
***
食事をしながら、水夜から色んな事を聞いた。
何冊もある日記に関わる魂を一つ一つ出来るだけ光の中へ案内したこと。
それが最近やっと終わり、自分も光の道へ行こうと思っていたところだったらしい。
最近まで住んでいた所はここではなく、もっと遠い山の中だったようで、水夜も、俺と離れてから、この地に残る事は寂しく、以前のように、転々と場所を移動していたらしい。
水夜は、俺が結婚していた事は伊蔵から聞いて知っていたから(伊蔵はきっと俺の様子もたまに見にきていたと思われる)、俺の事は待ちたい気持ちでいっぱいだったけれど、自分の事を忘れて幸せにしているなら関わるならよくないと思い、水晶では見ないようにしていたらしい。
しかし、日記の全ての事に終わりが来た時、一度だけ、俺を水晶で見たら、なんと、1週間後に老衰で亡くなるという事を知った。
彼女はもしかするとここへ来るかもと、最後のチャンスだと思い、この地に帰ってきた……と言う事だった。
でも、俺が忘れているなら、そのまま光の中へ行くつもりだったらしい。
ある意味、ギリギリセーフと言う訳だ。
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