たて子さん

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日記に書いてある通り、口を大きくガパッと開けたのが見えた。 「おおおおおっ…じゃああぁあ!」 逃げたい!でも、動かない。 口呼吸が止められているかのように、鼻息が荒くなる自分がいる。 たて子さんが走ってきた。 あぁ、もう間に合わない…… 今度こそ殺される…っ! 「おっおおお!じゃあぁー……」 ガニ股でワタワタと足と腕を振り回し、走ってくる。 それだけで俺を恐怖に落とすのには充分あった。 「おおお……じゃ……」 ダメだ!襲われる! 目を閉じたいのに閉じれない。 だけど、俺の目の前で、たて子さんは止まった。 「おお、じゃ…」 え、何? 「お、じゃ」 おじゃ? もしかして、何か喋っている? 彼女は片手を握り、もう片方の手をその握りこぶしの下に添えた。 そして、握りこぶしを自分の口元に動かす。 「おぉ、じゃあ」 もしかして、お茶?お茶と言っているのか? 「緋朝」 トン!と俺は背中を誰かに叩かれて、俺はビクッと震えた。 さっきまで動かなかった体が動く。 振り返ると、水夜だった。 「みや!」 声も出る! 緊張していた体と心が柔らかくなる。 俺は水夜にホッとして一瞬、笑顔を向けてると、たて子さんが急に大声を出した。 「ああぁぁああぁああっ!」 「緋朝っ!」 水夜は俺に後ろに下がるように腕で押し、自分が前に出る。 そして、水夜が綺麗な口を開けた。 もしかして、食べる? 「待て!水夜!」 俺は逆に水夜を自分の後ろへ隠す。 「な、なぁ!たて子さん!お茶!お茶飲みたいんじゃないか?」 「あぁぁぁあ、あああああっ!」 悲鳴に近い声が響く。 すごく怖かったが、さっきは落ち着いていた。 何か、彼女は言いたいことがあるハズだ。 たて子さんがやったジェスチャーを逆に俺が返す。 彼女は、たて子さんと言う名前ではないのかも知れない。 けど、何とか伝わらないかと、コップを持つような手を作り「お、茶」とゆっくり発音してみた。 不揃いな歯が見えた口がゆっくりと閉じられる。 「お、じゃ…」
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