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「柘植の櫛?」
「そうよ、よく分かったね。弥生みたいな綺麗な髪を更に綺麗にしてくれるんだって」
伊織は私の背中側に座り、長い私の髪を柘植の櫛で梳かし始めた。
「いいなぁ、弥生は。こんなまっすぐでサラサラな髪で。私は癖っ毛だから、毛先がどうしても、うねっちゃう」
私だって伊織の顔と交換なら、こんな髪交換してあげたい。
優しく髪を梳かしてくれる伊織にそんな事を言えないけど、髪なんて、どうでもいいよ……
「できた!ほら、お花のついたピンも買ってきたのよ、前髪に留めてあげる」
私の正面に回って、私の前髪を横に分け、右側に丁寧にピンをとめてくれた。
「ほら!可愛いよ」
でも……鏡に映る私は、変なつり目のおかしな顔で、可愛いピンをとめても、ちっとも可愛くなかった。
「……ありがとう、伊織」
***
伊織は、例の彼と一緒に帰って来る事が多くなった。
相変わらず仲よさそうに話し、彼に笑顔を向けている。
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