190人が本棚に入れています
本棚に追加
***
それから、私は伊織が帰ってくる時、彼をカーテンの陰から、そっと見るのが日課になった。
いいな、何て名前だろう。
喋ってみたい。
友達になりたい。
ううん、ホントは私を好きになって貰いたい。
……無理なのは分かってるけど。
その想いが、どんどん膨らんで、心の中がモヤモヤして気持ち悪い。
「ただいまぁー!弥生。お母さんが今日ハンバーグって言ってたよ」
「おかえり」
伊織は制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
その伊織の背中を見ていたら、自分の体の中でモヤモヤがどんどん大きくなっていくのが分かる。
「ねぇ、伊織」
「なぁに?」
伊織は私に背を向けたまま、答える。
「いつも、一緒に帰ってくる男の子の名前は何?」
伊織が私を振り返った。
「珍しいね、そんな事、今まで聞いてきた事ないのに」
「……別に。気になっただけだよ」
伊織は、何故かちょっと考えた後、私に笑顔を向けた。
「近藤……駿くんだよ」
近藤駿。
駿くんか……
少し心があったかくなる。
最初のコメントを投稿しよう!