やよいさん

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*** 私は、彼の名前を知ってから、毎日毎日。 伊織が学校に行っている間、鏡を見ながら柘植の櫛で髪を梳かした。 そして、貰ったお花のピンで前髪を留めてみる。 鏡にうつる私の顔は化け物のようで、長い髪が綺麗な程、余計に気持ち悪くみえる。 「駿、くん……」 泣きたくないのに涙が溢れた。 こんな時、友達がいたら、恋の悩みを相談したりするのかな。 伊織には、勿論言えない。 だって、伊織の彼だもの。 でも、友達くらいにはなれない、かな。 その日、いつも通り夕方に、伊織と駿くんが家の前で少し話をしている。 一度、話してみたい…… その想いが通じたのか、駿くんが帰る間際、また目があった。 これで、2度目だ。 彼は再び私にペコリと頭を下げた。 今回は私も少しだけ頭を下げたけど、カーテンで顔はほとんど隠していたから、あまり見えていないかも。 それでもドキドキし、私の中で駿くんへの気持ちがどんどん大きくなる。 「ただいま弥生!あれ?どうしたの?いい事あった?」 伊織がにこやかに聞いてくる。 「おかえり伊織」 「今日ね、調理実習で肉じゃがと茶碗蒸しを作ったの。今度弥生にも作ってあげるね」 「ねぇ、伊織」 「なにぃ?」 伊織はいつも通り着替えながら、私に答える。 どうしようか……優しい伊織なら分かってくれるかも。 駿くんとお友達になりたいってくらいなら。 「あのね、伊織。えっと……」 言いたいのに、怖くて口がうまく動かない。 「何よ、弥生。なんでも話して?どうしたの?」 笑顔で微笑む伊織。 いつも私の心配をしてくれる優しい伊織。 今回も、きっと、私の気持ちを分かってくれる。 優しい伊織ならーー 「えっと……ね、あの…… ……近藤くんをお友達として紹介してくれないかな?」 「えっ……」 伊織が驚いた。 そうだよね、今まで友達が欲しいなんて言った事なかったから。 だからこそ、私が友達が欲しいって言ったら、どれだけ強い気持ちなのか分かってくれるかも。 だけど 「……ダメだよ」 伊織は、今まで聞いた事のないくらい低い声で私に言った。
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