幸せに導く

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「緋朝、頭の傷はどう?明日お仕事でしょう?大丈夫?」 横になった水夜がたずねてきた。 俺はようやく振り返る。 「あー、うん、多分大丈夫。あ!でも枕カバーを血で汚してしまった。あとで洗うわ」 「そんなのいいわ、私が具合よくなったら洗うから置いといていいのよ」 「じゃあ、軽く洗っとくから、また綺麗に洗濯してくれる?……それより全然来ないね、霊」 俺が再び窓の外を見ながら言うと、水夜は「そんな事ないわ。緋朝が視えないだけよ」と言いながら上半身を起こす。 「1人、女性が来ているわ、あ、またもう1人来た。今度は男性ね」 「えっ!?」 俺は自分が普通にやよいさんを視ていたのもあって、霊が視えるようになっていたと勘違いしていた。 しかし、霊を普通に受け入れてる自分がいるな…… 「女性は水死体みたい。深緑色でブヨブヨに膨らんでるわ。男性は首吊りかしら……今も誰にも見つかっていなみたい。可哀想に、目が飛び出してる。首が変な形に伸びていて舌が口から出てるわ」 俺は内心視えなくて良かったと思った。 でも、それは一瞬で無くなった。 「緋朝、こっちへ来て」 水夜の近くに寄ると「頭を下げて」とお願いされる。 俺は水夜の前に座り込むと、彼女が少し起き上がり、俺の額に唇をつける。 額に柔らかくて熱い感触。 「ね、これで外を見て」 俺が驚いて目を丸くしているのを、水夜はフフと笑った。 細められる彼女の目。 優しくあげられた口角。 ……かわいい。 「ほら、緋朝、窓の外を見て」 俺は額の唇の感触の余韻に浸りながら、後ろを振り返る。 「!!……っひっ!」 俺は背筋が寒くなり、声も出ない程驚く。 ……視える。 霊が、視える!
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