幸せに導く

22/38
前へ
/360ページ
次へ
水夜が言った溺死の霊……変な色でブヨブヨの人間が、黒い筋をいっぱい身体中に浮かべて立っている。 パツパツになったスカートを履いているのでとりあえず女性だと思う。 そして膨らみきった両目の所に黒い穴が開いた顔で、こっちを見ながらびちゃっ、びちゃっと屋敷に向かって歩いてきているのだ。 首吊り死体もそうだ。 長く変な方向に向いた首をグネグネとさせ、今にもこぼれ落ちそうな目を、キョロキョロ回しながらこっちに来る。 こえぇ、正直こえぇ。 あんなの、もうゾンビだろ。 「こっち来るじゃん!こっち来るじゃん!」 「当たり前よ、呼ぶためのあの粉だもの」 俺は窓から離れた。 2人は、一歩一歩が重そうに部屋の壁を通り抜けて、中に入ってくる。 「うわぁ……うわぁあ……」 俺は怖くて、水夜のなるべく近くに行き、ベッドの下に座った。 べたっべたっと絨毯を歩く2人分の足音。 "み……みづげでぇ……わだ、わだじを、みづげ…… " " おご…おごぇ……ぐぼぉっ…" 「なんか!なんか喋ってる!なんか喋ってるぞ!水夜!?」 「……怖がらなくていいわ、すぐ終わるから」 俺は膝を丸めて耳を手で多い、ぎゅっと目を閉じた。 ゴッ!と大きな音がし、その後すぐに静かになる。 俺は、目をゆっくり開けながら前を見る。 ……何もいない。 水夜を振り返ると、彼女も寝転んだまま、こちらを見ていた。 「ね?大丈夫だったでしょう?」 「食べたの?あの気持ち悪いの食べたの!?」 「そうよ」 あっけらかんと答える水夜。 分かっていても、あの気持ち悪いのを食べるなんて、と気持ち悪くなってしまう。 「ほら、外からまだまだ来るわ。怖いなら、部屋に戻ってていいわよ」
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加