幸せに導く

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交通事故なのか、飛び降り自殺なのか分からないような、内臓が飛び出てて、手足が変に折れ曲がった人や、頭の無い人、体がピンク色に腫れ上がった人など、一斉に歩いてくる。 「や、これ無理だろ……」 「……部屋を出る?」 正直、出たかった。 だけど、やよいさんところに行くんだろ?俺。 「だ、い、じょうぶ……」 と、言ったものの、ゾロゾロと死体が歩いてくるのを見れば、体に力が入る。 「緋朝、こっちに来て」 見上げると、水夜はベッドの上に起き上がり、俺に向かって両腕を広げていた。 男なら、そんな女に抱きつくような恥ずかしい真似はしたくないのは心の奥底にあったのだけれど、俺はベッドに這い上がり、彼女の胸元に飛び込んだ。 細い腕が、俺を抱きしめる。 俺は後ろを振り返らなかった。 毛足の短い絨毯を、ベタベタ、ボタボタとも分からない湿気を含んだ足音と、低くて、途切れ途切れで、何を話しているのか分からない声から逃れたかった。 水夜はその霊たちの話なんか1つも聞かずに、飲み込んでいるようだ。 彼女の体がピクンとし、ごくんと聞こえる喉の音で分かった。 しばらく水夜は、俺を抱きしめたまま、霊を食べ、俺は抱きしめられたまま、背後で聞こえるゴッと霊を吸い込む音を聞いていた。 何分こうしていたか、分からないけれど、そろそろ慣れた…、と思った頃に、そおっと後ろを振り返る。 ドアップ。 ニタニタ笑った白目の太った男が目の前で、真っ黒な鼻血をドバドバと垂らしていた。 「っ……ちょっ!」 だけど、そいつも黒い霧に包まれると、水夜の口に吸い込まれる。 彼女の喉が上下した。
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