幸せに導く

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「ねぇ、緋朝。やよいさんの事なんだけど……」 「あ、うん……」 やよいさんの所へは行かない、行けないと伝えなければ。 勿論、水夜にも行って欲しくない。 「私、もう一度行こうと思うの。でも、あなたは行かなくていいわ。 以前は、行きたいってワガママ言ってごめんなさい。 あの時、緋朝が怪我をすると分かっていたら、やよいさんとお茶をせずに、やっぱりあの時、食べておけば良かったのかも知れない」 「な、何で?何で行くの?」 「あの隠し部屋にあった、3人分の骨を外に出してあげなくちゃ」 水夜はいつも通り、表情を殆ど変える事もなく、当たり前のようにそう言った。 俺は、左右に首を振る。 「ダメだ!ダメだ!」 「緋朝?」 「ダメだ!」 怖気づいた自分が恥ずかしかったのか、本当に彼女が心配だったのか分からなかった。 俺は水夜の瞳を見つめたまま、首を振り続ける。 やよいさんの笑う顔が頭の中でグニャリと脳裏で歪む。 怖い。 目を開けると、俺を覗き込む縦の目。 思い出すとゾワリと背中に鳥肌が立った。 「でも、あの3人の骨をあの部屋に置いておくことは可哀想」 「分かってるよ、でも!」
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