幸せに導く

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俺が1人で行く、前はそう決めたのに、その一言が言えない。 水夜が行くなら俺も行く、とも言えない。 ヘタレだ、俺。 「緋朝、あなたは来なくていい。怖かったでしょ?ごめんなさい。もう無理は言わないから。ちょっと待って。お湯が沸いたわ」 水夜がキッチンへ行ってしまうと、俺は広い食堂でポツンと1人になった。 その広さと静けさが寂しくて、余計に自分に情けなくなる。 しばらくして、熱い紅茶をトレーに乗せた水夜が戻ってきた。 何も言わずに俺の前に紅茶を置く。 ミルクと、丸いごろごろしたボール状の砂糖が隣に出された。 水夜は、その砂糖を1つを自分のカップに入れて、ティースプーンで、ゆっくりかき混ぜている。 ………。 こんなに美しい水夜。 彼女は、やよいさんの所へ行ったら、また昨日のように食べるんだろうか… そして、やよいさんの存在を、再び無かった事にするんだろうか。 「……やよいさんは……友達が欲しかっただけなんだ。双子の伊織のように、普通の生活がしたかった」 水夜がスプーンを動かす手を止めた。 「どう言う意味?伊織って?」 「……」 そうか。やよいさんの今までの記憶は、水夜は知らないんだ。 「やよいさんは……」 俺は夢で見たことを全て水夜に言った。 友達も恋も出来ず、家族にすら愛されなかったやよいさんの孤独な話を。 そして、死んだ後もあの家に残って"友達"を大切にしているのだと。 ただ、これは夢なのかも知れないと付け加えて。 だけど、水夜は俺がやよいさんの過去を見てきたんだと言った。 「……私、駿くんと言う人が生きている時に、やよいさんを食べてしまったのね……悪い事をしたわ。なおの事、彼女とお友達をキチンと助けなくちゃ……私のせいだわ」
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