幸せに導く

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水夜が目を細めて、唇をギュッと結んだ。 「水夜……」 声をかけると、眉を八の字にして、両手をテーブルの上でギュッと握って俺を見た。 黒い瞳が悲しみと後悔でユルユルと揺れている。 今にも泣き出すかと思った。 初めてみた、彼女の動揺する表情に、勝手に口が動く。 「大丈夫。俺が行く。パーティーしようって約束したのは、俺だから」 水夜は無言のまま、首を左右に振った。 「緋朝はそこまで考えなくていいの。私の責任だわ。体がもう少し回復したら、私が約束を守りに行く。3人の骨も外へ出してあげたい」 「水夜、ダメだ。俺も行く。水夜が1人で行くなら、俺も勝手に1人で行くからな!」 行ける方法なんか知らない。 だけど、水夜を1人で行かせるワケには行かないし。 「……分かったわ。一緒に行きましょう。少しでもやよいさんにいい思い出を作って貰って……それから、やよいさんの遺骨が、家のどこかにあるんじゃないかと思う。探しましょう。あの部屋の3人とやよいさん、一緒にしてあげて、この屋敷の裏の森に埋めてあげましょう」 「そんな事できるのか?」 水夜は、小さく左右に頭を振った。 「……分からない。 私は霊を天に上げてあげることは出来ない。そうやって、供養の真似事をするしか。 でも、そうしてあげたいの」 やよいさんと、あの閉じ込められた3人を 何とかしたいという水夜の気持ちが伝わってくる。 水夜は長い睫毛を伏せて、両手を組んでギュッと握っていた。 きっと、何も知らずにやよいさんを食べてしまったこと、それによって、まだ生きていたかも知れない駿さんを放置するに至った事を、後悔しているんだ。 小学生2人だって、すごく怖い思いをしたはずだ。 早く皆を出してあげなくては。 やっと、俺もそう思えたんだ。
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