幸せに導く

35/38
前へ
/360ページ
次へ
「や、やよいさん、いますか?緋朝です」 玄関から叫んでみた。 だけど、1階からも2階からも、やよいさんの声もしなければ、こちらへ来るような音もしない。 耳をすませるけれど、何の音も聞こえない。 「やよいさん!緋朝です!お邪魔しますよー?」 「2階へ上がりましょう。もしかしたら、あの押入れの床下に居るのかも」 俺と水夜は2階へ上がり、例の押入れのある和室へ入った。 が、誰もいない。 荷物を置き、辺りを見回す。 「俺、他の部屋見てくる」 「分かったわ。私は押入れを」 俺は2階にある他の2部屋も見て回るが、やよいさんは居ない。 「やよいさん」と何度も声をかけてみたが返事もない。 「水夜、他の部屋にも居ないみたいだ」 俺は例の和室に戻って、水夜に声をかけると、彼女は押入れを開けて、下の段の床を開けようとしていた。 「変ね、開かないの。開くような感じのフタにもなっていないみたい。完全に床だわ」 「え?」 俺も押入れを覗く。 上の段には、俺が気を失った時に寝かされていた血まみれの布団が置いてある。 そして、下の段の床を触ると、前に見たような穴がないし、その穴の、床下収納のようなフタもないのだ。 ないというか、もともとそんな物存在しなかったのように、単なる床で。 俺と水夜は顔を見合わせる。 「……とりあえず、1階も探しに行きましょうか」 「うん、そうしよう」 だが、1階にもやよいさんの姿はなかった。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!

190人が本棚に入れています
本棚に追加