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その村には、九つになる少年に対し、村の一員と認めて武器を与える風習があった。
九つになったキースも父に連れられ、一山越えた先の町の武器屋へ向かう。
大斧や大鎌、大剣など、生活に必要な道具しかない村で育った子どもにとって、武器屋は未知の世界だった。
「ねぇ、父ちゃん。あれは何?」
「ああ。ありゃ、黒傘だ」
「クロカサ?」
「そうさ、ドラゴンを殺す為の武器だ。お前には関係ねぇ」
黒い鱗皮が乳白色の棒によってピンと張られたソレは、キースの目を奪って離さなかった。
結局は一般的な短剣を買い、柄に名入れをしてもらったが、黒傘への憧れは決してなくならなかった。
あれから八年。
目標貯金に達したキースは家出した。
腰には自分の短剣。背中のリュックにはこの日の為に厳選した荷物を入れて、村から飛び出した。
昔行った武器屋はまだ健在で、中に入るとあの頃のままの光景が広がっていたが、黒傘はない。
「おじさん!黒傘はどこ?昔あそこにあったでしょ?」
中年の店主に泣きつくと、店主は怪訝な表情を浮かべる。
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