―かけらを あつめて―

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 沢意とタクイ。  自分の中にあった二つの存在が一つになって行く。どの記憶も無くなっていない。忘れていた分だけが増え、彼への想いが大きく膨らみ上がる。 「甘い。好き」  ほろほろと零れる涙に気付いた彼が、優しく笑ってくれた。 「おかえり、沢意」 「総武……。ただいま」  それ以上は言葉にならなかった。  ずっと手を伸ばしていた。  真っ暗な闇の中から、ただ、その愛しい存在だけに向かって手を伸ばしていた。  やっと届いた光。やっと辿り着いた、光の世界。愛しい半身。甘い薄荷の味。 「好きよりも、もっと……奇跡。愛してる、総武」  戻って来た記憶と同じ、愛おしい言葉を舌に乗せ、もう一度、互いに寄せ合う唇。  総武の唇は軽く触れ合わせただけで離れていった。その変わりと、ぎゅっと体を抱き込まれる。 「沢意を俺に下さい」  真っ直ぐ見つめる先に、思い出したばかりの両親が苦い顔でこちらを見ている。  互いに互いが必要な存在。  二人で一人。 「もう、総武しか要らない」  自分の呟きに、二人がビクリと肩を震わせる。そして父は何もかも諦めたように、一言、コトリと零した。 「好きにしなさい」 「あなたっ」  諦め切れない母が父の腕を掴み縋るような瞳を向ける。 「諦めなさい。沢意は私達とは違う道を歩いている」  父は静かに言って、もう一度、腹底に溜まっていたのだろう重たい息を吐き出した。 「アンタに関しては、マインドコントロールの実行犯だからな。これ以上沢意に関わるなら警察に訴えてやる」  総武が睨み据えた先のドクターは、あの暗い笑みのまま、 「イヤだなぁ。御両親がストップをかけてるのに、私が手を出せるわけがないだろう。それこそ本当に犯罪だよ」   と言いながら最後に「勿体ないけれど諦めるよ」と未練がましく手を引く事を約束した。  真っ白な世界。  ふわふわと漂う意識を、総武の熱でここに引き戻される。  どこまで行っても、果てしなく求める大切な人。愛おしい熱。 「もう一度、総武に、恋を、したんだ」  体の奥まで総武のその熱さに揺さ振られながら、今まで紡げなかった言葉を伝える。 「俺も」  照れも誤魔化しもない、ストレートな想い。  あり得ない所で繋がったまま、視線を合わせられる。そんな何もかもを曝け出せる相手と出会えた幸せ。奇跡。  求める熱が大きければ大きいほど、交わりは激しく、熱くなる。  次第に呼吸も荒くなり、口付けを交わしては離れた隙に、互いの唇を銀色の艶糸が繋ぐ。  一緒に。どこまでも、二人。    終わったばかりで互いの呼吸も治まらない間に、総武はギュッと抱き締めてくる。  これから時間はたっぷりあるのに、隙を見せれば居なくなりそうだと、総武はこの体を放してくれない。 「ずっと見てた。傍で。ありがとう、総武」  離れていたわけではないのだと、暗に伝えてみる。  ずっと傍に居た。ずっと傍に居てくれた。 「愛してる」  低い総武の呟きに、零れた涙が止まらなくて、やっと帰って来られたのだと、心から思った。  もっと触れていたくて、彼の胸に頬を擦り寄せると、その胸へと長い腕で包み込まれた。  互いの温もりが甘やかに溶けあう。  漂ってくるのは、薄荷ドロップの香り。  誘われるように腕の中から見上げると、コロコロと薄荷を舐める総武の顔。 「食べるか?」 「ん」  応えると、そっと口付けられた。 「甘い」 「そこまで来たら、ほとんど薄荷の味なんてしてねぇし」 「美味しくて、幸せなら良いんだよ」  苦笑しながら見下ろされ、ついつい膨れっ面になる。  そうだ、自分は総武が舐め溶かした薄荷の味しか知らない。  辛い薄荷ドロップは未だに食べられない。だから、やっぱりこれからも、総武の缶の中に薄荷ドロップを詰め込んでしまうのだろう。  虹の欠片は自分が貰う。  虹を見るたび、未だに少し辛そうな顔を見せる総武の為に。  そうして総武が虹を見ても辛くなくなったら、ちゃんと虹の絵本を出すのだ。  いつでも二人で一人。  奇跡の虹の絵本を。
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