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「ワカッタ。アリガト」
眉間に深い皺を刻んだまま、彼は二コリともせず、ともすれば重たい溜息を吐きそうな顔で、こちらを見ている。
そして徐にポケットから、アルミ缶を取り出した。
カラカラと音を立てて、中に固い何かが入っているのは分かるが、中身が何なのかは知らない。ただ自分の体が急にビクリと大きく反応した。
自分の脳にあるデータは、その缶を見た後の甘い香りと、ドクターの妙にねっとりとした囁き声だけ。
「ア……ア……ッ……」
次第に呼吸が浅くなって、体が硬直していく。身体機能が停止寸前まで冷たくなって、手も足も感覚が無い。
無様に零れる声も掠れていて、上手く息が吸えていない事を相手に伝えてしまう。
もう自分の瞳に、先生は映っていなかった。
急に乱れ始めた脳が映しだしているのは、小さな缶と、ここには居ないはずのドクターの姿。
『そうだよ。ゆっくり息を吸ってごらん。甘いだろう? これで貴方は、楽になれるよ』
「イヤ……ダ……ッ。アッァッッ」
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