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◇◇◇
雨が降ってきた。
私の右手には、畳まれたままの傘がぷらぷらと揺れている。
せっかくのレイングッズなのに、今の私にはこのアイテムを到底使う気にはなれない。
今し方、私は彼氏に振られたばかり。
この傘は、彼の好みに合わせて買った物。
開けば嫌でも目に入る、彼好みの柄。
振られた理由は簡単。
向こうに、私とは別に好きな女の子が出来たから──
今現在、私の涙腺は決壊寸前にある。
だから今日のお天気は、今の私にとっては恵みの雨。
もしもの場合には、この雨が涙をカモフラージュしてくれる。
一人街中をふらつく私は、ショーウインドウの前で立ち止まった。
目に入って来たのは、小首を傾げる向こう側の自分。
「誰……?」
そんな言葉が口から零れた。
そこにいたのは、私であって私ではない誰か。
しっとりと濡れそぼった長い黒髪。
そっと掻き上げてみると、指に伝わる重たい感触が妙に私の心を締め付けた。
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