雨の日に傘はいらない

4/14
前へ
/14ページ
次へ
『俺、長いストレートの黒髪が好みなんだ』  他愛のない会話の中で聞いた、彼の言葉。  そんな言葉に後押しされて、その日からここまで頑張って伸ばした髪。  彼に告白をして、まさかのOKを貰った時には信じられない思いでいっぱいになった。  それからの私は『もっと彼に好かれたい』ただひたすらその一心。  髪型はもちろんの事、まずは服装に気を付けた。  メイクも彼の好みに合わせたものを勉強した。  彼の好きな音楽。  彼の好きな映画。  彼の趣味をも全て網羅して、彼との会話に備えた。  これで完璧──そう思っていたのに。  彼が新たに好きになった彼女。  髪型は、ふんわりとカールの掛かったセミロング。  色は明るいアッシュブラン。  理想とは異なるその可愛らしさに惹かれた、そう彼は言った。  どう言う事?  私のしてきた事は何?  理想と現実はまた別だ──そう言う事だろう。  それとも私は、彼の理想を追い求めて必死になりすぎたのだろうか。  重たい女、そう思われたに違いない。  それがさよならの理由なのだろう。  何にしても、終わったのだ  もう何もかも。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加