絶望の夜

8/16
前へ
/307ページ
次へ
月に一度か二度、大地に恵を(もたら)す雨は、その現象そのものが神として祀られている。 乾季の長いクレメリア皇国にとって、雨は、それ程に貴重なものであった。 「雨の女神オルテアよ。どうかお母様をお護りください。」  両の手を組み、祈るセイラーン。 その端正な横顔を視界の端に見ると、姉姫もまた、雨の女神に家族の無事を祈った。  その祈りが届いたのか── やがて雨は、水の弾幕に変じて、追っ手から幼い姉弟を隠してくれた。 しとど降る雨の(かいな)に護られて── クレメリア皇国の皇女と皇子は、城下の街を目指したのである。
/307ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加