絶望の夜

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 同じ頃。 クレメリアの首都──ファミールの街は、大混乱していた。 城壁の四方にある門の内、三つまでが閉ざされ…残された唯一の城門には、武装した兵士が集結している。物々しい空気の中、街を統べるギルド長が、強張った顔で兵士長に抗議した。 「ラモン兵士長殿、これは一体どういうことです?? 私に何の断りも無く、城門を閉ざされては困る。今夜は、ニつのキャラバン隊が街に帰って来る予定なのですよ?」 「非常事態だ。ファミールは、当面の間封鎖する。」 「では、その理由をお聞かせ願おう。一方的な封鎖は、横暴に過ぎる。」  きっぱりと言い放ったギルド長に迎合して、街の人々が不満の声を挙げる。 城下ファミールでは、何よりも商人の意見が尊重されていた。自治体と王宮との密なる関係によって、栄えてきた街である。  このままでは、暴動に成りかねない──。 しかし、この緊迫した局面にあっても、ラモン兵士長は頑なに口を閉ざしたまま、城門を背に仁王立ちしていた。
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