皇王の宝

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 ヒステリックな物言いにも、エイダム卿は静かに頭を垂れて聞いている。それがまた癇に障るのか、シレーアは苛々と踵を返して地下通路を歩いた。 向かう先は、女神の深淵──『皇王の遺品庫』である。 (セイラーンは、あの場所に向かったに違いない。私が唯一入ることのできない部屋…あそこに一体何があるのか? どうにかして、中を確かめなくては!) 赤い唇をきつく噛み締めて、黒髪の魔女は遺品庫に向かう。  やがて龍血石(ドラグサイト)が明々と輝く封印扉の前に辿り着くと、忌々し気に杖を掲げて命じた。 「出でよ、龍騎(ドラゴンナイト)! この扉を破壊せよ‼」  すると、どうだろう? 背後に控えていたヒース・エイダムの肉体が、見る見る内に変容を始めたではないか! 赤い瞳、燃え上がるように逆立つ髪。 大きく避けた口からは鋭い牙が伸び、盛り上がった筋肉が、纏っていた革の防具を弾き飛ばす。低く唸り声をあげるエイダム卿の全身は、いつしか、爬虫類のような硬い鱗に覆いつくされていた。  美しかった近衛騎士団長の容姿が、明らかに人外の者に変わっている。頭部には長くねじれた二本の角が──(あまつさ)え、銀鱗輝く長い尾まで生えていた。
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