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半時程して…。
すっかり身支度を終えた二人がテントから出て来た。短い別れの挨拶をして、キャラバンの停留地を出て行く。
アザール山の稜線を、眩しく縁どる朝の光。
駿馬エール号の背に跨る二人を、リネルは、涙ぐみながら見詰めている。そうして、傍らに立つ族長を見上げて訊ねた。
「レヴァント。このまま行かせちゃって良いの??」
…だが。レヴァントが、その問いに答える事は無かった。
朝靄が晴れ、馬上の姉弟は、静かに遠ざかって行く。その背中を見送りながら…リネルは、再びけたたましく鳴いた。
「レヴァント、止めるなら今よ!? あの二人が、どうなっても良いの?!」
「………。」
──すると。キャラバンの隊長は、やおら踵を返した。仮の厩で、一頭の馬の保定を外すと、ヒラリとそれに跨る。
忽ち馬上の人となったレヴァントは、馬の腹を蹴り、風に向かって馳せた。あっという間に、銀髪の姉弟に追い付くや、馬を前に着けて道を塞ぎ、幼い姉弟に向かって言い放つ。
「この恩は一生忘れないと言ったな、皇子殿下??」
「?は、はい…」
「ならば、今すぐ恩を返して頂こうか?」
「え?」
「俺達は、定住の地を探している。故郷を持たないキャラバンとはいえ、いつかは皆、年老いて旅が出来なくなる。その時が来たら、今度はあんた等が、俺達を助けてくれないか?」
──刹那。皇女と皇子は、顔を見合わせて首を傾げる。キャラバンの隊長が、一体何を言わんとしているのか…二人には、まるで理解出来ない。
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