絶望の夜

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砂塵を巻いて、二頭の早馬が駆けて行く。 先頭を走るのは、クレメリア皇女・アリエス。やや遅れて続くのは、弟にして第二皇子のセイラーンである。 風に靡く銀髪が美しい姉弟だ。 キリリと前を向く瞳は、菫色。陶器宛らの白い肌。その横顔は、神像の様に整っている。 皇女アリエスは、十六になったばかり。片や、皇子セイラーンは、まだ十三歳という幼さだ。 間もなく、夜がやって来る。 街の灯は未だ遠く、忍び寄る闇が、空を静かに染めてゆく。 紫根から藍へ──そして、全き漆黒へ。 夜寒の中、手網を握る手は冷たく凍っていた。だが往かねばならない。目指すは、クレメリア皇国の王城──白鷲城である。
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